Browsing Tag

24 Plain White T’s

朝5時に起きて、薄暗いベッドを抜け出すまえに、がさごそと、できるだけ静かめにふとんの中をあさって掴んだのは、白くて柔らかい、無印のTシャツだった。 それは数時間前まで山下が寝るときに着ていたもので、すぽっと頭からそれをかぶり、大抵ベッドの脇か足元に落ちている自分の短いショートパンツをそのまま下着なしに身につける。 ちらりと斜めうしろを振りかえって、そこに眠っている背中が起きないか注意を払う。 わた […]…

かぞく

20 リュウジとマイ

いつか、山下と一緒に過ごしたのは2015年の暮れのことだったのだけど、その短い数ヶ月のあいだ、たった2回だけ、彼に心をわしづかみにされたことがあった。 一回は大げんかをしたかたしか別れ際のときで、なにが起こったのかよく覚えていないけれど、わたしは山下の家の、2回から階段を降りた玄関のそばで、突っ伏して泣いていた。 激しい嗚咽と、まだ山ほどいろいろ抱えていたわたしは、山下の気持ちがあっという間に冷め […]…

かぞく

18 世界一幸せな地獄絵図

前の家にいたころ、いつか昔わたしは山下の部屋の鍵を持っており、山下はわたしの部屋の鍵を持っていた。 今住んでいる場所の鍵を山下が持つようになるときは、ふたりの間になにか新しいものが垣間見えるときだと思う。 ベッドに寝込んだまま数日ほとんど飲まず食わずだったわたしは、意識が朦朧とするなか時々イケアに行ったときにお守り代わりにバッグに入れていた、村上春樹のエッセイを捲った。細切れに眠ったり、その眠りが […]…

かぞく

16 五角形の痛み

そのあとの一週間といえば、さんざんなものだった。わたしは数日たちすぐに寝込んだ。 こころから一緒にいたいひとが消えた代わりに、わたしのそばには山下がいるという混乱、それはデジャヴのようにわたしを恐怖に陥れて、身体がズウンと重くなり、首や肩のところが凝り固まったように痛くなり、高い熱があるときのような、全身の痛みがするようになった。 それは実はちょうど、ユウ君を諦めて離れるまで長らく続いていた症状だ […]…

かぞく

15-3 壊れたガタガタの階段

  イケアから家に戻る高速道路で、この春わたしは本当は、ユウ君と暮らし始めることを心待ちにしていたのだということをぽつり声に出した。多分、それを誰かに吐き出したことすら初めてのことだったと思う。喉が詰まるような感覚と、ぐっとこらえる涙と、言葉にするのがほんとうに、難しかった。 山下は、わたしがユウ君を好きなことも、揺さぶられて感情的になることも、いつどんなときもほとんど無反応だった。 た […]…

かぞく

15-2 壊れたガタガタの階段

しかし、本当にしかし、わたしはが思い出す限りこんなにも普通に生きた男をほかには知らない。 山下は、わたしがこれまでに付き合った男遍歴のなかでも、たぶんぶっちぎりで私から好かれていなかった男だと書いたが、私に好かれていなかっただけではなく、一位二位を争う「普通」を貫いていた。 天皇陛下似の野々村さんは、一見ジェントルマンで外見は普通のひとだったが、蓋を開けて話すとかなり変な人で、一度「なるほどだから […]…